米国が広範囲にわたって実行しようとしている厳しい関税は世界経済の収縮、でなければ少なくともGDP成長率の低下につながる可能性がある。今回我々は、2021年〜2022年にサプライチェーンの滞りでプラチナ需要が過去最低水準に下がった時期を基準にして、プラチナ需要に対する関税の影響を検討した。その結果、自動車触媒におけるパラジウムの代替需要といったプラチナ需要の構造的な変化のおかげで、関税が理由で需要が減るリスクは緩和され、減少幅は約12.4トンに抑えられるという予測になった。この程度の減少では、2025年に予測されている26.4トンの供給不足は解消しないことになる。

 米国が発表した10%の一律関税、そして90日間停止された国別の相互関税は世界の経済成長予測を押し下げた。格付会社フィッチは昨年12月に発表した2025年の世界のGDP成長率を2.6%から2.3%に引き下げ、JPモルガンは世界が景気後退入りする確率を先週だけでも15%から60%に段階的に上げていった。プラチナの年間需要の9割は自動車、宝飾品、その他の産業に関連しているが、2013年から2023年のプラチナ需要の伸びと世界のGDP成長率は0.8と高い相関関係があった(図1)。

図1.プラチナ需要はGDPと相関関係

プラチナ需要はGDPと相関関係
出典:ブルームバーグ、メタルズフォーカス *自動車・宝飾品・工業需要

図2.関税リスクでもプラチナは供給不足

関税リスクでもプラチナは供給不足
出典:メタルズフォーカス(2019年~2025年予測)、WPICリサーチ

 今年3月の『プラチナ四半期レポート』で、今年のプラチナ需要は前年比で2.8%減ると予測した。プラチナ需要は多岐にわたるとはいえ、米国の輸入関税の範囲と税率が予想を上回ったため、この需要予測を見直す必要がある。2021年から2022年はコロナ禍で世界的にサプライチェーンが中断してプラチナ需要がわずか215トンに減った。今回の米国の関税がもたらす世界貿易の混乱もそれに通じるものがあるが、いくつかの点で根本的に違う。一つ目は、自動車の輸入関税25%で自動車販売台数が約170万台減り(図5)プラチナ需要2トンが失われるというのが我々の予測(『プラチナ投資のエッセンス3月31日』)だが、2021年から2022年は一年で1,000万台から1,500万台もの自動車が減産された。さらにパラジウムの代替となるプラチナの需要約25トンは今では需要に組み込まれている。二つ目は関税で減ると予想される工業需要は約3トン(図6)と少なく、その理由として(1)工業需要は安定、(2)2025年の工業需要予測はすでに過去5年間で最低、(3)2025年内に計画されている生産能力拡大は既に着手されている(つまり、関税による工業需要の影響は2026年以降になる可能性)ことが挙げられる。三つ目は宝飾品需要で、2021年から2022年は最も少ない57トンだった(図7)が、それは我々の2025年需要予想63トンよりも6トン少ない。コロナ禍中の需要との比較で考慮すべき点は、コロナ禍中は小売店での店舗販売や結婚式が全くなかったこと、そして今はプラチナとホワイトゴールドの宝飾品の間の価格差は無くなっていることだ(『プラチナ投資のエッセンス』1月16日)。

 プラチナ需要全体で最悪の場合約12トン(需要全体の5%)減るリスクもあるが、それでも今年の予想26トンの供給不足の解消には至らないだろう。

プラチナ需要と世界のGDP成長は相関関係

米関税でプラチナ需要が減っても2025年のプラチナ市場の供給不足には影響しない

投資資産としてのプラチナを支える背景

-WPICのリサーチによると、プラチナ市場は2023年から供給不足が続き、2029年までに地上在庫がなくなる可能性
-プラチナ供給は南アの鉱山供給減とリサイクル率の低下で問題多い
-貿易摩擦がマーケットの流動性に影響しタイト感を募らせている
-プラチナは世界のエネルギー転換に不可欠な水素経済で重要な役割を果たす重要鉱物
-プラチナ価格は長い期間過小評価が続きゴールドよりも大幅に安い

図3:2024年のプラチナ需要(258トン)は自動車、宝飾品、工業、投資など多くの分野からなる

2024年のプラチナ需要(258トン)は自動車、宝飾品、工業、投資など多くの分野からなる
出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図4:北米は2024年のプラチナ需要全体の19%だったが、米国の関税は世界的に影響を及ぼす可能性

北米は2024年のプラチナ需要全体の19%だったが、米国の関税は世界的に影響を及ぼす可能性
出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図5:米国の自動車販売は価格との関連性が高く、関税で影響を受ける可能性

米国の自動車販売は価格との関連性が高く、関税で影響を受ける可能性
出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図6:工業のプラチナ需要の減少は既に2025年の予測に織り込み済み

工業のプラチナ需要の減少は既に2025年の予測に織り込み済み
出典:SFA(オックスフォード)(2013年~2018年)、メタルズフォーカス(2019年~2024年)、WPIC

図7:底を打ったコロナ禍中の2020年のプラチナ宝飾品需要は、2025年の予測よりも6トン少ない

底を打ったコロナ禍中の2020年のプラチナ宝飾品需要は、2025年の予測よりも6トン少ない
出典:SFA(オックスフォード)(2013年~2018年)、メタルズフォーカス(2019年~2024年)、WPIC

図8:主要分野の需要減は2025年のプラチナ市場の供給不足の解消にはならない

主要分野の需要減は2025年のプラチナ市場の供給不足の解消にはならない
出典:メタルズフォーカス(四半期レポート)、WPICリサーチ

 

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