日本株の上昇ドライバーとして、自社株買いの重要性高まる
トランプ関税ショックで日経平均株価が乱高下する中、日本株の買い手として存在感を強めているのが、自社株買いです。近年、年間10兆円を超える自社株買いが出るようになり、日本株の最大の買い手となっています。
米国企業の経営者は、できる範囲で最大限自社株買いをし、株価を上げる経営をしてきました。少しでも財務余力があれば、すかさず自社株買いをするのが当たり前でした。それが、米国株の上昇に寄与してきました。
一方、日本企業の経営者はこれまで、自社株買いにはあまり熱心ではありませんでした。キャッシュフローに余力があれば、できる限り借金返済をして、財務余力を高めることに熱心でした。経営危機になってもリストラしないで生き延びられるように、余力を蓄えておくのに熱心でした。
ただし、近年、風向きが変わりました。東京証券取引所(東証)による要請が影響しています。東証は、株価純資産倍率(PBR)1倍割れの上場企業に対して、株主価値の向上策の開示と実行を要請し、それに応じて、自社株買いをする日本企業が増えています。
また、近年、株価が割安な日本企業に対して、合意なき買収が増えてきているのも、影響しています。株価が安過ぎるのを放置すると、買収されるリスクが高まることを、日本の上場企業経営者も、真剣に考えるようになりました。
財務が良好で、収益が安定的なのに、PBR1倍を割れている割安企業が、日本にはたくさんあります。そうした日本企業が、積極的に自社株買いをする時代になってきたと思います。
自社株買いをすると、なぜ株価が上がるのか
ところで、自社株買いをするとなぜ、株価が上がるのでしょう。自社株買いの意味が日本では正しく理解されていません。今日は、自社株買いを解説します。
「自社株を買うんだから、株価が上がるんだろう」と、自社株買いの意味を「買いが入る」という需給材料だけと考えている方もいます。
確かに「自社株買い」を発表した企業の株価が、短期的に大きく上がることもあります。自社株買いをネタに、短期筋が買い上がると、そうなります。でも、それだけならば、短期的な株価材料にしかなりません。企業の投資価値が変わらなければ、いずれ売られて、元の株価に戻るでしょう。
自社株買いの意味は、「買って株価を押し上げる」ことではありません。「1株当たりの利益を増やす」ことにあります。
自社株買い(自社が発行した株式を自らの資金で買い戻す)をすると、市場から発行済み株式数が減ります。会社の利益総額が変わらなければ、1株当たりの利益が増えます。1株当たりの利益が増えることを好感して、株価水準が高くなることが期待されます。
少し分かりにくかったかもしれないので、「たとえ話」で説明します。
40個のケーキ(企業の純利益)を株主10人で均等に分け合うことを考えてください。1人4個ずつもらえます。ここで、企業が自社株買いを実施し、株主2人の株を買い取ったとします。すると、株主数は8人に減りますので、1人当たりのケーキの割り当ては、5個に増えます。このように自社株買いとは、株式数を減らすことで、1株当たりの分け前を増やすことにあります。
自社株買いのメリット、おおまかな計算
では、発表された自社株買いが、株主にどのくらいのメリットがあるか、おおよその見当をつける方法をお教えします。
発表された自社株買いが、全て実行されるとした場合、発行済株式数が何%減るのか、見ると良いです。
具体例を見てみましょう。以下をご覧ください。
2025年4月30日に発表されたJR東海(9022)の自社株買い概要

ここで、一番注目していただきたいのは、私が赤で囲んだところ、「発行済株式総数に対する割合4.57%」です。上限株数を発表時の株価で買い付けると、発行済株式総数が、4.57%減少します。ということは、1株当たり利益が、おおむね4.57%増えるわけです。
株価収益率(PER)などの株価評価が変わらなければ、自社株買いで、1株当たり利益が4.57%増加し、株価が4.57%程度上がると期待できます。厳密に計算すると、もう少し異なる結果となりますが、ざっくりしたメリットの把握としては、上記でオーケーです。
この発表が出た翌日、5月1日に東海旅客鉄道(JR東海:9022)株は前日比9.8%上昇しました。自社株買いの理論上のメリット(約4.57%上昇)を超える上昇となりました。
次に注目していただきたいのが、青で囲んだ「取得期間」と「取得の方法」です。「2025年5月1日から2026年2月27日」まで、「市場買付」とされています。つまり、「10カ月くらいかけて、市場で買っていく」ということです。
自社株取得枠で表示される金額は、あくまでも上限であって、それを本当に全て買うか分かりません。株価が上昇し過ぎると、買わないこともあり得ます。