米国株が下落局面入りして2カ月がたちました。本格的な中期上昇に転じるための条件に欠かせない、政策・ファンダメンタルズの好転は、短くともまだ3~6カ月は先になるでしょう。一方、相場の短期的な揺り返しにつながる条件がそろいつつあります。5月へ久々に前向き目線で臨む構えですが、果たして…
サマリー
●米国株は下落局面入りしてから2カ月、様子見を継続
●1~2年スパンの中期的回復に必要な、政策・ファンダメンタルズの好転はまだ見通せない
●しかし短期的な相場揺り返しの条件がそろいつつあり、5月相場には久々に前向き目線
「かく乱相場」の投資家心理
米国株がひどい下落局面に入って、もう2カ月になります。急激に上昇したAI(人工知能)株相場が自律調整に転じ、第2期トランプ政権の政策によるかく乱がダメ押しとなった格好です。
相場の上昇局面では、多くの投資家は株式投資のリスクに前向きです。しかし、下落局面になって、「自分の投資ポジションが含み損を抱えるかもしれない」という状況では、不安で気が気でなくなります。
例えば、損失を被った結果、「受動的にリスクにさらされることになった人」は、能動的に利益を狙ってリスクを取りにいく人よりも、リスクをより大きく感じやすいでしょう。
相場急落後の市場では、こうした受動的なリスクに耐えかねて、「何とか不安解消へ売り逃げたい」「売りで割安になった株を値ごろで買いたい」といった、リスクを意識したさまざまな売買動意が交錯します。
そのような市場環境では、脈絡なく相場が動く場面が多くなり、読みにくい市場への投資家の不安が募りがちです。
リスクオフの傾向が強まり、先行き不透明な状況であるほど、投資家は「存在しない解答」を求める傾向が強まります。不安な人が占い師の言葉をそのまま受け入れてしまうのと同じです。
不透明な相場を解説する「専門家」も、人々の期待に応えようと、シンプルで明快な言葉を使って、断定的な言葉遣いをしてしまいがちです。
「暴落」とか「危機」などの不安をあおるフレーズを多用して投資家の注目を集めようとする「専門家」も少なくありません。
最近の「トランプかく乱相場」においても、「トリプル安=米信用失墜」とか「リーマン級危機」とか「パウエル解任」などの刺激的なフレーズが、実質的な中身や実現可能性を精査されないままに、流布されました。
筆者は折々に、そうしたフレーズについて、「短絡的すぎる」「実現可能性は乏しい」と指摘しています。しかし、神経質な相場はこうしたフレーズにも反応するため、投資を実践する上では、内実を伴わないとしても軽視できません。
トランプ砲やベッセント砲、パウエル砲が話題になるように、要人のコメント一つにも、相場は敏感に反応します。中身を精査する余裕もないまま、言葉の表面だけで相場が振れているのです。
サイクル転換への確認ポイント
長期にわたる相場上昇局面が、深い下落局面に転じています。それが上昇に転換するための条件を考えてみましょう。
1~2年スパンの「中期」で相場が持ち直す条件は、米国の政策といったファンダメンタルズの好転です。
しかし、経済・物価のハードデータで、関税の引き上げ後にどう悪化するかを確認できるのは、少なくとも3カ月以上先のことです。また、今後公表される経済指標には、関税前後でデータに不測のゆがみがあり得るため、「本当に動向がどうなるか」の判断は難しいかもしれません。
政策好転という条件については、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げや量的緩和、いわゆるパウエル・プットは、経済・物価のハードデータを確認してからでしょう。危急の事態にでもならない限り、まだ先のことです。
トランプ・プット、つまり、減税や規制緩和による経済と市場へのサポートは、一連の関税ディールが一巡してからになりそうです。現時点では、相互関税を7月上旬まで延期し、そこまでに各国別にディールを進めるという方針です。トランプ・プットへの政策転換は6~12カ月スパンで見るべきものと想定しています。
図1:米国株4指数の推移とサイクル局面

短期的な揺り返しのサインも
中期的な相場サイクルの転換を判断するには早いですが、短期的な相場の揺り返しは起こり得ます。揺り返しに必要なのは、悪材料が確認済みとなりリスク回避の売り逃げが一巡することです。
悪材料としての行き過ぎた相互関税の数値は公表済みです。そして、米国が各国とディールする7月上旬までの猶予期間を設けています。米中間の高い関税率も、貿易を事実上不可能にする水準であり、これが限界でしょう。
それを考えると、今後は水面下で米中対話の模索が始まると私はみています。
今後も、気まぐれなトランプ砲は繰り返されるでしょう。ただし、トランプ政権も、景況・市況の急な悪化には一定の配慮を示すようになってきました。これは相場の下値不安を緩和させる一助になります。
そして、私が注目しているのは相場のリズムです。悪材料を確認し、2カ月という下落期間を経て、ようやくこれまでの大急落からの「揺り返し」の短期条件がそろいつつあるという期待を5月相場に抱いています。
現時点で私が想定しているのは、相場がまだ下落トレンドの渦中かもしれない段階での、小波動のような「揺り返し」までです。「悪材料が確認できた」「売りが一巡した」といっても、確たる理由には聞こえないかもしれません。
しかし、心理的なかく乱状態にある相場の収束には重要なステップです。さらに、こうした小波動の積み重ねが、相場の本格回復への下地となるのです。私の日頃の短期相場分析でも、その部分に重きを置いています。
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米国株「トランプ混乱相場」の投資家心理 5月に揺り返しの兆し?
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